はじめに
2025年、高品質なWebアプリケーションを迅速に提供するために、E2E(End-to-End)テストの自動化はもはや選択肢ではなく必須のプラクティスとなりました。かつてこの領域はSeleniumの独壇場でしたが、開発者体験(DX)を武器にしたCypressが登場し、そして今、Microsoft製のPlaywrightが驚異的な速度でシェアを拡大しています。
事実、2024年半ばには、npmの週間ダウンロード数でPlaywrightがCypressを逆転するという、象徴的な出来事が観測されました。この地殻変動はなぜ起きたのか?そして、絶対王者だったSeleniumは今、どこへ向かっているのか?
この記事では、E2Eテスト自動化の三強となったSelenium、Cypress、Playwrightを徹底的に比較し、それぞれの思想、長所・短所、そして2025年現在の立ち位置を明らかにします。あなたのチームに最適なフレームワークを選定するための、決定版ガイドです。
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三大フレームワークを徹底解剖
The King: Selenium - 揺るぎない実績と互換性の巨人
- 思想: 「ブラウザ操作の標準化」。W3C WebDriverという共通のプロトコルを通じて、あらゆるブラウザ、あらゆる言語からWebページを操作することを目指します。
- 長所:
- 圧倒的な互換性: Java, Python, C#, Rubyなど、サポート言語の幅広さは他の追随を許しません。チームの技術スタックを問わずに導入できます。
- 巨大なエコシステム: 長い歴史の中で培われた豊富なドキュメント、サードパーティツール、そしてクラウドテスト基盤(BrowserStack, Sauce Labsなど)との連携実績は絶大です。
- 短所:
- 実行速度と安定性: WebDriverを介した通信は、モダンなフレームワークに比べてオーバーヘッドが大きく、テストが遅く、不安定(flaky)になりがちです。
- セットアップの煩雑さ: 各ブラウザに対応するWebDriverの管理は、かつて開発者の悩みの種でした(現在はSelenium Managerである程度自動化)。
- 2025年の現在地:
WebDriver BiDi(双方向通信)という新しいプロトコルへの対応を進め、弱点だった安定性の向上を図っています。しかし、その主な役割は、多様な言語が求められる大規模なエンタープライズ環境や、特殊なブラウザのテストが必須となるレガシープロジェクトを支えることへとシフトしつつあります。
The Challenger: Cypress - 開発者体験の革命児
- 思想: 「開発者体験(DX)こそが正義」。テストはQAエンジニアだけのものではなく、開発者が書くべきという思想のもと、フロントエンド開発のワークフローにシームレスに統合されることを目指します。
- 長所:
- 優れたデバッグ機能: GUIテスターは、各コマンドの実行結果をスナップショットで確認できる「タイムトラベル」機能を備え、テスト失敗の原因究明が非常に容易です。
- 導入の手軽さ: オールインワンの思想で、アサーションライブラリやモック機能が組み込まれており、すぐにテストを書き始められます。
- 短所:
- アーキテクチャ上の制約: ブラウザ内でテストを実行する独自アーキテクチャのため、複数タブやiframeの操作が苦手でした。また、クロスオリジンの制限も受けやすいです。
- 限定的なクロスブラウザ/言語対応: 長らくChromium系ブラウザが中心で、WebKit(Safari)への対応は実験的なまま。言語もJavaScript/TypeScriptに限定されます。
- 2025年の現在地: Playwrightの猛追を受けつつも、その優れたDXは未だに多くの開発者に愛されています。特にフロントエンド開発者がコンポーネントテストの延長でE2Eテストを書く、といったユースケースでは依然として強力な選択肢です。
The New Ruler: Playwright - モダンブラウザ時代の覇者
- 思想: 「モダンブラウザの能力を最大限に引き出す」。Microsoftが開発を主導し、現代のWebアプリケーションが必要とする機能を、高速かつ安定的に提供することを目指します。
- 長所:
- 最高のクロスブラウザ対応: Chromium (Chrome, Edge), Firefox, そして**WebKit (Safari)**の3つの主要なブラウザエンジンに完全対応しています。
- 圧倒的な速度と安定性: ブラウザのDevToolsプロトコルを直接利用するため、高速に動作します。また、自動待機(Auto-wait)機能が非常に賢く、不安定なテストを激減させます。
- 強力な標準機能: テストの並列実行、複数タブ/複数ユーザーのテスト、ネットワークのモック、そして秀逸なデバッグツール
Trace Viewerがすべて無料で標準搭載されています。
- 短所:
- 学習コスト: Cypressほど「手取り足取り」ではなく、ある程度のプログラミング知識を前提としています。
- コミュニティの歴史: Seleniumに比べれば、コミュニティの歴史は浅く、ニッチな問題の解決策は見つけにくい場合があります。
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機能別・徹底比較表
| 観点 | Selenium | Cypress | Playwright |
|---|---|---|---|
| アーキテクチャ | WebDriver (外部プロセス) | In-Browser (同一プロセス) | DevTools Protocol (外部プロセス) |
| 実行速度 | ★☆☆☆☆ (遅い) | ★★★☆☆ (速い) | ★★★★★ (最速) |
| クロスブラウザ対応 | ★★★★★ (ほぼ全て) | ★★☆☆☆ (WebKit非対応) | ★★★★★ (主要3エンジン完全対応) |
| デバッグ体験 | ★★☆☆☆ (コンソールログ中心) | ★★★★★ (GUI, タイムトラベル) | ★★★★☆ (Trace Viewerが強力) |
| 並列実行 | △ (Selenium Gridで可能/複雑) | △ (有償クラウドサービス) | ◎ 標準搭載(無料) |
| 対応言語 | ◎ Java, Python, C#等多数 | ○ JavaScript/TypeScriptのみ | ○ JS/TS, Python, Java, C# |
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なぜPlaywrightはCypressを逆転できたのか?
この勢力図の変化は、Playwrightが後発の利を活かし、開発者がCypressやSeleniumに感じていた「痒いところ」を的確に解消した結果です。
- 真のクロスブラウザ対応: 「Macで開発している開発者のSafariでも動くか?」という当たり前の要求に、WebKit対応で応えました。
- コストパフォーマンス: Cypressでは有償だったテストの並列実行を標準機能として提供し、CI/CDでの大規模なテスト実行のハードルを下げました。
- アーキテクチャの優位性: Cypressが苦手としていた複数タブやiframeのテストを容易に実現し、より複雑なシナリオに対応しました。
- Microsoftの信頼性: Microsoftによる継続的な開発と、VS Codeとの強力な連携が、開発者に安心感を与えました。
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結論:2025年、あなたのチームが選ぶべきフレームワークは?
Seleniumを選ぶべき時:
- チームの主要言語が**JavaやPython、C#**である。
- IE11のようなレガシーブラウザのサポートが必須。
- 既に巨大なSeleniumベースのテスト資産が存在する。
Cypressを選ぶべき時:
- フロントエンド開発者がテストの主役である。
- 視覚的なデバッグ機能と、素早いフィードバックループを何よりも重視する。
- テスト対象がモダンなSPA(Single Page Application)で、複雑なクロスオリジン操作が少ない。
Playwrightを選ぶべき時:
- これからE2Eテストを導入する、ほぼ全てのプロジェクト。
- Safari (WebKit) を含めた厳密なクロスブラウザテストが求められる。
- 大規模なテストスイートを高速かつコスト効率良く実行したい。
- JavaScript以外の言語(Python, Java等)も選択肢に入れたい。
最終的な提言: 2025年において、特別な理由がない限り、E2Eテストフレームワークの第一候補として検討すべきはPlaywrightです。その上で、開発者体験を極度に重視する文化を持つチームであればCypressも有力な選択肢となります。Seleniumは、もはや「新規で選ぶ」というよりは、「既存の資産や特殊な要件のために使い続ける」という位置づけになりつつあります。
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