Platform EngineeringはDevOpsを置き換えるか？【2025年版】

はじめに

「DevOpsの次はPlatform Engineeringだ」— 2025年、この言葉は技術カンファレンスやブログで頻繁に語られるようになりました。開発者の生産性を劇的に向上させるというこの新しいパラダイムは、多くの技術リーダーから熱い視線を集めています。しかし、それは同時にある疑問を投げかけます。「我々が長年築き上げてきたDevOpsの文化は、もう古いのだろうか？」

この記事では、今最もホットなこの疑問に正面から向き合います。Platform Engineeringは本当にDevOpsを「置き換える」のか。それとも、全く別の何かを指しているのか。両者の本質的な関係を解き明かし、2025年における開発組織の理想的なあり方を考察します。

DevOpsの理想と「認知負荷」という現実

まず、DevOpsの原点に立ち返りましょう。DevOpsの核心は、開発（Dev）と運用（Ops）の壁を取り払い、協力的な文化を通じて、ソフトウェアのデリバリーを迅速かつ高品質にするための一連のプラクティスです。CI/CD、Infrastructure as Code (IaC)、監視といった自動化技術は、その文化を実現するための手段でした。

しかし、「You build it, you run it（作ったものが、運用もする）」というDevOpsの理想は、時として開発者に大きな負担を強いることになりました。アプリケーションのコードを書くだけでなく、

• Kubernetesのマニフェストを書き、
• Terraformでインフラを定義し、
• CI/CDパイプラインを構築し、
• Prometheusでメトリクスを監視し、
• コンテナの脆弱性をスキャンする…

これら全てを開発者個人が担うことになり、本来集中すべきビジネスロジックの開発から注意が逸れてしまう「認知負荷（Cognitive Load）」の増大が、多くの組織で深刻な課題となったのです。

Platform Engineeringの登場：開発者のための「舗装された道」

Platform Engineeringは、この「開発者の認知負荷」という課題を解決するために生まれました。

その本質は、開発者が利用するツールチェーン、ワークフロー、インフラを、再利用可能で信頼性の高い「社内プラットフォーム」として設計・構築し、プロダクトとして提供することです。

プラットフォームエンジニアリングチームは、インフラの複雑さをカプセル化し、開発者にはセルフサービスで利用できる「舗装された道（Paved Road）」を提供します。開発者は、まるで高速道路の入口でチケットを取るように、簡単なコマンド一つで新しい開発環境を手に入れたり、アプリケーションをデプロイしたりできるようになります。これにより、開発者はインフラの複雑さを意識することなく、アプリケーション開発という本来の仕事に集中できるのです。

結論：置き換えではなく「進化」である

ここで最初の問いに戻りましょう。Platform EngineeringはDevOpsを置き換えるのでしょうか？

答えは明確に「No」です。

両者は対立する概念ではありません。その関係性は「置き換え」ではなく「進化」であり、「実装」です。

• DevOpsが、組織が目指すべき**「文化」や「哲学」**（なぜ、何を）であるのに対し、
• Platform Engineeringは、その文化を大規模組織でスケールさせるための**「具体的な実践方法」や「アーキテクチャ」**（どうやって）です。

認知負荷に苦しむ開発者を見て、「DevOpsは失敗だった」と結論づけるのは早計です。むしろ、Platform Engineeringは、DevOpsの理想（自動化、コラボレーション、迅速なフィードバック）を、持続可能かつスケーラブルな形で実現するための、現時点での最も有力なアプローチなのです。

Internal Developer Platform (IDP) が提供すべきもの

Platform Engineeringの具体的な成果物が、Internal Developer Platform (IDP) と呼ばれるものです。IDPは、単一のツールではなく、組織のニーズに合わせて様々なツールを組み合わせた統合環境です。優れたIDPは、開発者ポータルなどを通じて、以下のような機能をセルフサービスで提供します。

• 標準化されたCI/CDパイプライン: pipeline.ymlをゼロから書く必要はありません。
• IaCによる環境プロビジョニング: 新しいテスト環境やプレビュー環境を数分で構築できます。
• 統合されたオブザーバビリティ: ログ、メトリクス、トレースが自動的に収集され、ダッシュボードで確認できます。
• 自動化されたセキュリティスキャン: コンテナイメージやライブラリの脆弱性がCIプロセスに組み込まれています。
• サービスカタログとドキュメント: 組織内で利用可能なAPIやサービスが一覧化され、その使い方をすぐに参照できます。

2025年の主要ツールスタック

IDPは、これらの機能を既存の優れたツールを組み合わせて実現します。2025年現在の典型的なツールスタックは以下のようになります。

• IDPポータル (開発者の入口): Backstage, Port
• IaC (インフラ定義): Terraform, Crossplane, Pulumi
• CI/CD (ビルドとデプロイ): GitHub Actions, Argo CD, Jenkins
• コンテナオーケストレーション (実行基盤): Kubernetes
• プラットフォームオーケストレーター (IDPの頭脳): Humanitec

まとめ：DevOpsの理想を、現実の組織で実現するために

Platform Engineeringは、DevOpsの文化を殺すものでは決してありません。むしろ、その理想を全社的に広げるための強力なエンジンです。

したがって、2025年の開発組織が立てるべき問いは、「DevOpsか、Platform Engineeringか」という二者択一ではありません。

「我々のDevOpsという文化を、Platform Engineeringというアプローチでどう実現していくか？」

これこそが、すべての技術リーダーが向き合うべき、本質的な問いなのです。