はじめに
「CSS-in-JSは終わった」— 近年、フロントエンド開発コミュニティで頻繁に耳にするこの言葉。しかし、本当にそうなのでしょうか? 一方で、Tailwind CSSは驚異的な速度で普及し、CSS自体もコンテナクエリなどの強力な新機能を次々と実装しています。2025年、私たち開発者は、かつてないほど多様なCSS設計の選択肢の前に立たされています。
この記事では、この混沌とした状況を整理し、「CSS-in-JSは終わった」という言説の真偽を解き明かします。主要な4つのアプローチを徹底的に解剖・比較し、あなたのプロジェクトにとっての「本当の勝者」を見つけるための羅針盤となることを目指します。
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4つの主要アプローチを徹底解剖
現代のCSS設計は、主に4つのアプローチに大別できます。それぞれの思想と長所・短所を見ていきましょう。
アプローチ1: Utility-First (例: Tailwind CSS)
HTML(JSX)内にユーティリティクラスを直接記述していくことで、スタイルを構築するアプローチです。
- 特徴:
class="flex items-center justify-center"のように、CSSプロパティに直接対応するような小さなクラスを組み合わせてデザインを構築します。 - 長所:
- 圧倒的な開発速度: CSSファイルとコンポーネントファイルを行き来する必要がなく、思考を中断せずにスタイリングできます。
- 強制される一貫性: デザインシステム(カラースキーム、スペーシング等)がクラスとして提供されるため、チーム内でのデザインのばらつきを防ぎます。
- 優れたパフォーマンス: ビルド時に未使用のクラスを自動で削除(Purge)するため、最終的なCSSバンドルサイズは最小限に抑えられます。
- 短所:
- マークアップの肥大化: 複雑なコンポーネントではクラス名が長大になり、可読性が低下することがあります。
- 独自クラスの学習コスト:
flexやitems-centerといったTailwind独自のクラス名を覚える必要があります。
アプローチ2: Zero-Runtime CSS-in-JS (例: Panda CSS, Vanilla Extract)
JavaScript/TypeScriptのファイル内で型安全にスタイルを定義し、ビルドプロセスを通じて静的なCSSファイルを生成するアプローチです。
- 特徴: TypeScriptの力を借りて、
const buttonStyle = css({ color: 'blue', fontSize: '16px' })のようにオブジェクトとしてスタイルを記述します。 - 長所:
- 最高の開発体験: 型補完、プロパティのタイポ検出など、TypeScriptの恩恵を最大限に受けられます。
- ランタイムオーバーヘッドゼロ: スタイルはビルド時にCSSファイルとして抽出されるため、ブラウザ実行時のパフォーマンスへの影響がありません。
- 動的スタイルの容易さ: propsに基づいたスタイルの切り替えなども型安全に行えます。
- 短所:
- ビルドステップが必須: このアプローチの恩恵を受けるには、ViteやNext.jsなどのモダンなビルドツールが欠かせません。
- 比較的新しい技術: コミュニティの成熟度や情報量は、他のアプローチに比べてまだ発展途上です。
アプローチ3: 伝統的CSS Modules
古き良きCSSファイルをコンポーネントごとに作成し、import styles from './Button.module.css' のように読み込んで利用するアプローチです。
- 特徴: クラス名はビルド時に
Button_button__1a2b3cのように一意な名前に変換され、自動的にスコープがコンポーネント内に限定されます。 - 長所:
- 完全な関心の分離: スタイル(CSS)と構造(HTML/JSX)が明確にファイルとして分離されます。
- 予測可能性と堅牢性: スタイルの影響範囲がファイル内に閉じているため、意図しないスタイル上書きなどの問題が起こりません。
- 学習コストの低さ: 素のCSSを知っていれば、すぐに使いこなせます。
- 短所:
- ファイル間の頻繁な移動: スタイルを少し修正するだけでも、複数のファイルを開き、編集する必要があります。
- 動的スタイルの扱いにくさ: propsに応じたスタイル変更は、複数のクラスを条件に応じて適用する必要があり、やや煩雑になりがちです。
アプローチ4: モダンCSS (素のCSS + 新機能)
特定のフレームワークやライブラリに依存せず、進化したCSSの標準機能そのものを最大限に活用するアプローチです。
- 特徴: コンテナクエリ (
@container)、カスケードレイヤー (@layer)、親セレクタ (:has()) といったCSSの最新機能を駆使して、高度な設計を実現します。 - 長所:
- 依存関係ゼロ: プロジェクトのビルドプロセスをシンプルに保ち、外部ライブラリの脆弱性やアップデート追従の悩みから解放されます。
- 最高のブラウザパフォーマンス: ブラウザがネイティブに解釈するため、余計な抽象化レイヤーがなく、最も効率的に動作します。
- 短所:
- 高い専門知識が必須: これらの新機能を効果的に使いこなすには、CSS仕様への深い理解が求められます。
- ブラウザサポート: 一部の新機能は、古いブラウザではサポートされていない場合があります。
さらに理解を深める参考書
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「CSS-in-JSは終わった」の真相
この言説の核心は、パフォーマンスにあります。
結論から言うと、終わったのは**「Runtime CSS-in-JS」**の時代です。これは、styled-componentsやEmotionといったライブラリがブラウザ上で実行される際に、JavaScriptを使って動的にスタイルシートを生成・注入する方式を指します。この処理は、特に複雑なアプリケーションにおいて、無視できないパフォーマンス上のオーバーヘッド(JavaScriptの実行時間、メモリ使用量)を生み出していました。
一方で、本記事で紹介した**「Zero-Runtime CSS-in-JS」**は、この問題を解決する進化形です。開発者はTypeScriptで快適にスタイルを書きつつ、最終的な成果物は最適化された静的CSSファイルとなるため、パフォーマンスと開発体験を両立できます。
つまり、「CSS-in-JS」という大きなカテゴリが終わったのではなく、その実装方法がよりパフォーマンス重視の形に進化した、と捉えるのが2025年現在の正しい認識です。
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比較表:結局、何が違うのか?
| 観点 | Utility-First (Tailwind) | Zero-Runtime CSS-in-JS | CSS Modules | モダンCSS (素のCSS) |
|---|---|---|---|---|
| 開発体験 | ★★★★☆ (高速) | ★★★★★ (型安全) | ★★★☆☆ (堅実) | ★★☆☆☆ (原始的) |
| パフォーマンス | ★★★★★ (最適化) | ★★★★★ (静的) | ★★★★☆ (良好) | ★★★★★ (ネイティブ) |
| 学習コスト | ★★★☆☆ (独自クラス) | ★★★☆☆ (ビルド知識) | ★☆☆☆☆ (CSSのみ) | ★★★★★ (仕様理解) |
| 保守性/規模 | ★★★★☆ (一貫性) | ★★★★★ (型安全) | ★★★★★ (スコープ) | ★★★☆☆ (自己規律) |
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2025年、あなたは何を選ぶべきか?
「これさえ使えば間違いない」という銀の弾丸は存在しません。プロジェクトの特性に合わせて最適なツールを選びましょう。
スタートアップ・個人開発で最速を求めるなら →
Tailwind CSS- アイデアを素早く形にし、MVPを開発するなら、その開発速度は圧倒的な武器になります。
型安全性と最高の開発体験を何よりも重視するなら →
Zero-Runtime CSS-in-JS- TypeScriptをフル活用した大規模なフロントエンド開発で、保守性と開発効率を両立させたい場合に最適です。
大規模で長期的な運用が前提のプロジェクトなら →
CSS ModulesまたはZero-Runtime CSS-in-JS- CSS Modulesの厳格なスコープは、コードベースが巨大化しても破綻しにくい堅牢性を提供します。Zero-Runtimeも型安全性により同様のメリットを享受できます。
ライブラリ依存を極力避けたいミニマリストなら →
モダンCSS- 依存関係を最小限に抑え、ウェブの標準技術だけで構築したいという哲学を持つチームに。ただし、相応のCSSスキルが求められます。
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まとめ
「CSS-in-JSは終わったのか?」という問いへの答えは、**「No, but it has evolved.(いいえ、しかし進化した)」**です。
2025年のCSS設計における大きな潮流は、ランタイムでの高コストな処理を避け、ビルドタイムの最適化とブラウザのネイティブ機能を最大限に活用する方向へ回帰していることです。
- Tailwind CSS は、ユーティリティクラスという形でビルド時の最適化を徹底しています。
- Zero-Runtime CSS-in-JS は、開発体験を損なうことなく、成果物を静的なCSSへと変換します。
- モダンCSS の進化は、そもそもライブラリに頼る必要性を減らしてくれます。
本当の勝者は、特定のライブラリやフレームワークではありません。この大きな潮流を理解し、プロジェクトのコンテキスト(チームのスキル、アプリケーションの規模、パフォーマンス要件)に応じて、最も合理的な選択を行える開発者こそが、現代のCSS設計における真の勝者と言えるでしょう。
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